毎晩、夜中に脚が痛いと起こされて、対処している。
「先生、夜中に痛いというと、こうして、『ラブ』を手につけて塗ってやるんですよ。そうするとまた、眠れるんです」と、にこにこしながら夫が言う。
『ラブ』は外用消炎鎮痛剤。市販の塗り薬。
働き者の妻が病気になり、高齢の夫が介護している。妻の指示のもと、夫は洗濯が出来るようになった。掃除も出来るようになった。ご飯も炊けるようになった。1年たち、夫の家事もほぼ合格点。
葬儀の準備や、銀行口座の話しもしている。
下半身麻痺で退院し、訪問診療が始まり1年たった頃。
いつもは饒舌な本人、その日は目を閉じたまま。待っていると、涙がぽろり。
「もう、逝ってしまいたい」「もう、終わりにしたい」
出てくる言葉はそれだけ。
20分位たつと、
「明日になったらまた戻ります。頑張ります」
僕が「お好きにどうぞ」と返すと、泣きながら笑う。
しばらくすると、また涙を流し
「明日はないかもしれない」
僕は「それなら、俺も挨拶しておかなきゃね『さようなら』」
「さよならは、いいたくない!」
俺はまた「お好きにどうぞ」と返し、本人が笑う。
しばらくすると
「明日は頑張ります!」と本人。
また俺が「お好きにどうぞ」と返し、本人が笑う。
たったそれだけの会話の繰り返しで30分。
夫ともそんな会話の繰り返しが何ヶ月も続いている。
『ラブ』は外用消炎鎮痛剤。市販の塗り薬。
妻に必要なのは痛み止めでなく、夫にさすってもらうこと。
「旦那さん、効いているのは薬じゃないですよ。その手自体が『love』なんですよ!」
と俺が言うが、その意味は80台後半の夫には伝わらない(汗)。