緩和ケア 萬田診療所

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ラブ

ラブ.jpg下半身麻痺の82才の妻を介護する夫。

毎晩、夜中に脚が痛いと起こされて、対処している。

「先生、夜中に痛いというと、こうして、『ラブ』を手につけて塗ってやるんですよ。そうするとまた、眠れるんです」と、にこにこしながら夫が言う。

 

『ラブ』は外用消炎鎮痛剤。市販の塗り薬。

働き者の妻が病気になり、高齢の夫が介護している。妻の指示のもと、夫は洗濯が出来るようになった。掃除も出来るようになった。ご飯も炊けるようになった。1年たち、夫の家事もほぼ合格点。

 

葬儀の準備や、銀行口座の話しもしている。

 

下半身麻痺で退院し、訪問診療が始まり1年たった頃。

いつもは饒舌な本人、その日は目を閉じたまま。待っていると、涙がぽろり。

「もう、逝ってしまいたい」「もう、終わりにしたい」

出てくる言葉はそれだけ。

20分位たつと、

「明日になったらまた戻ります。頑張ります」

僕が「お好きにどうぞ」と返すと、泣きながら笑う。

しばらくすると、また涙を流し

「明日はないかもしれない」

僕は「それなら、俺も挨拶しておかなきゃね『さようなら』」

「さよならは、いいたくない!」

俺はまた「お好きにどうぞ」と返し、本人が笑う。

しばらくすると

「明日は頑張ります!」と本人。

また俺が「お好きにどうぞ」と返し、本人が笑う。

たったそれだけの会話の繰り返しで30分。

夫ともそんな会話の繰り返しが何ヶ月も続いている。

 

『ラブ』は外用消炎鎮痛剤。市販の塗り薬。

妻に必要なのは痛み止めでなく、夫にさすってもらうこと。

「旦那さん、効いているのは薬じゃないですよ。その手自体が『love』なんですよ!」

と俺が言うが、その意味は80台後半の夫には伝わらない(汗)。

 

  2017.07.11