奥さんと外来通院しているSさんの悩みは、
「『本当は結婚して欲しくないんじゃないんですか?』
自宅が診療所の近くだったので、週2回くらい通院していたが、
「娘が『会わせたい人がいる』って言うんですよ!」
嬉しそうだ。当然娘の彼と会う話しになるかと思ったが、
「いや〜 二人とも娘に恋人がいるなんて気付かなかったですよ〜」
と嬉しそうだが、その先はない。
「で、、、、会わないんですか?」
俺が焦っている?
「そーですか?」
とぼけているのか、本当は会いたくないのか?
「早く会わないと!」
「そうですかね〜」
翌日の訪問看護師の高橋さんからの報告。
「今週の土曜日にホテルで4人で会うんですって」
ほーっ。話しが早いじゃない。
俺も楽しみになってきた。
2日後、薬が足りない。近所なので、気軽に訪問する。
「土曜日、会うんですって!」
「いや、それが、、、
「で、、、、いつにするんですか?」
やはり、焦っている様子はない。
冗談半分に、
「萬田診療所でやったらどうです? ベットもあるし」
俺の提案に笑っていたが、その反応から、その気ないなと思った。
早くも翌日、Sさんを訪問した高橋さんから連絡があった。
「本当にいいんですか?萬田診療所をお借りして」
あまりにも早い展開にびっくり。高橋さんが『お借りして』
「もっ、、、もちろん使って!」
萬田診療所は築30年の小さなテナントを借りて、
腹水を抜く人が重なることもあるから、
外来は家族でくることが多いので、患者は少ないが、
そんな、、、がん相談外来、緩和ケア外来が楽しくて、
というわけで、狭い萬田診療所には待合室や処置室が作れない。
3日後の土曜日の昼、この萬田診療所でのSさんの娘と「お相手」
高橋看護師から指示が来る
「食事は済ませて来ます。
今度は俺の妻が反応する。
「私がコーヒー入れる。お菓子も準備するから任せて!」
「じゃ、お言葉に甘えて、、、」
と、高橋さん。
当日、土曜日は一件外来予定入れただけで、
この仕事はいろんな人の人生を見せてもらえる人生劇場。
仕事としてだけではなく、俺の人生勉強の場でもある。
土曜日。約束の12時。
来た来た! 元気そうだ。Sさんと高橋さんと赤の診療室になだれ込んで、
「お世話になります、ちょっと弱気になっちゃって、、、」
照れながら話す。
「元気そうじゃないですか!」
高橋さんが興奮気味に話しだす。
朝から調子悪くて、不安になり、高橋さんが臨時訪問したらしい。
「呼ばれたら『今日はキャンセルしようかな』
「いやあ、、、すみません」
照れているSさん でも、久しぶりに診療所に来れた事に嬉しそう。
緊張する間もなく、娘と「お相手」が登場。
娘は一回外来でここに来ているのせいか、
「お相手」は緊張しているだろうな〜
4人を赤の部屋に通し、記念写真を撮る。
妻も淹れたてのコーヒーを準備した。勿論すぐドアを閉め、
赤の部屋の様子は聞き耳立てれば聞こえそうだが、
1時間半たったところで、閉会の雰囲気が。
「あれっ? お父さん、いいんですか? 格好つけ(椅子に座って、、)なかったんです?」
「えへっ、 最初からベット使わせてもらいましたよ(汗)」
「でも、主人が一番話してましたよ。
と奥さんも嬉しそうだった。
ベットに横向きの姿ではあったが、
そして、また高橋さんがリードしながら、
月曜日に訪問診療に行った。
「どうでした? 『お嬢様を下さい』って言われたんです!?」
「いやー、特別そういう事は言われなかったです。『
「私は、緊張していて、全然覚えてないわ〜」
「そーだったんですかあ〜」
「でも、お父さんが1人でずっと話してたんですよ!」
と妻が。
「いやーっ、みんなおとなしいから僕が喋んなきゃねー」
「そーだったんですかあ〜」
しばらくすると、こんな話しが出て来た。
「娘がね、昨日婚約指輪を見せてくれたんです。
「なーんだ!「結婚前提」じゃないじゃん! 婚約まで行ってたんだ!おめでとうございます!」
「最近娘は堂々とニコニコするんですよ」
「堂々とニコニコですか。そりゃいい話しだ。嬉しいですね〜」
「嬉しいですよ〜」
「、、、、、結婚式の話しは出てるんです? 」
「その話は出てません、、早く決めてくれないと、、、」
「お父さんが焦っちゃダメですよ。結婚式出るんじゃ、
「そうですね〜」
俺の頭の中でSさんが娘とバージンロードを歩く姿が浮かぶ。
高橋さんから企画が入る前に、